犀川の「基本高水」に関する意見書

平成14年11月20日

犀川水系河川整備検討委員会委員 殿

                            犀川の「基本高水」に関する意見書

金沢市小立野3-12-28
中 登史紀(技術士)

 第1回の委員会を傍聴いたしました。傍聴者も意見を文書で提出することができるとの委員長の返答がありましたので、ここに意見を申し述べます。
 筆者は、平成7年以来、石川県河川課ダム建設室(もと、河川開発課)と「辰巳ダム」の土木技術的問題について議論をつづけています。現在のところ、既存の「辰巳ダム治水計画」の石川県説明には「辰巳ダム」の必要性についての技術的根拠が見あたりません。現在、県が作成中の治水計画(「整備基本方針」)については公表されておりませんので当然ながら、まだ、意見はありません。
 次回11月29日の委員会では,「基本高水」についての議論が行なわれるということが決まりました。そこで、県の作成案に基づいて検討し、意見を述べようとしました。しかし、平成14年11月13日時点でまだ検討過程であるので公表できないとのことでした。県の案の出ない段階では、案に対する当方の意見をいうことはできませんので、代わりに、これまで当方が「基本高水」について主張してきたことを記述します。

(1,920m3/秒 は有史以来、発生したことのない洪水?)
 現在の計画では、犀川大橋地点の「基本高水」が1,920m3/秒となっています。この数値に対して、筆者は、県の解析に本質的な誤りがあり、県は百年確率の流量と主張するが「これは有史以来発生したことの無い洪水量ではないか?」と指摘してきました。「基本高水」については、県が基本方針の策定にあたり、直近20数年のデータを入れて再計算しているとのことで、その解析結果を見てから、あらためて意見を申し述べるつもりです。
(現時点で達成された数値は、1,600m3/秒!)
 犀川総合開発事業(辰巳ダム)の前の計画(現在築造済みの内川ダムと浅野川放水路が整備された計画)では、犀川大橋地点の「基本高水」が1,600 m3/秒となっています。県の作成した「辰巳ダム治水計画」を正確に読めば、これがほぼ百年確率の流量に当たると、筆者は主張しています。県が過大な数値を選択したことにより二つの重大な誤りを犯しています。@データの流用(降雨の時間的、空間的変動を無視しているという誤り)、Aカバー率の取り方(統計手法の誤り)で、ここでは説明を省略します。

 降雨から洪水量を求める解析手法は、いろいろな仮定を入れて算出された結果であり、いわば、架空の数値です。実際に起こる現象とは相違があります。それでは、実際にこれまで発生した洪水の流量はどれくらいでしょうか?

(実際の洪水量は?→過去100年間の最大は842m3/秒!)
 この疑問に対して、県はほとんど答えることができませんでした。やむえず、当方で県の協力を得て調査することにしました。今年に入ってから、文献調査を手始めに、現地調査も含めて、約半年をかけて調査しました。有史以来の出水量を調査しようと、意気込みましたが、さすがにそこまではわかりませんでした。明治の後半からは降雨データの手掛かりもあり、何とか推定することができました。20世紀の百年間に関して、おおよその出水量を把握することが出来ました。驚いたことに、その数値は意外に小さいものでした。

犀川大橋地点での実際の推定出水量は、以下のとおりである(「基本高水」に該当)。
● 大正11年8月3日 犀川大橋陥没破壊 772m3/秒
● 昭和36年9月16日 第二室戸台風 727±87m3/秒
● 平成10年9月22日 台風7号 842m3/秒
● 平成8年6月25日 梅雨前線 346m3/秒

 平成10年9月の台風7号による洪水が最も大きいものであることがわかりました。この結果については、平成14年7月26日、石川県河川課長および金沢市河川課長あてに「犀川の治水に関する申入書」という形で提出しています。特に、反論はもらっておりません。
 100年確率の雨が100年の間に降る確率は、63%ですから、20世紀の百年の間に必ずしも発生するとは限らないかもしれません。県が50年確率と説明している(『犀川水系辰巳ダム治水計画説明書平成7年2月』p.5)1,600m3/sならば、百年の間に発生する確率は、87%です。あってもよさそうなものですが実際の洪水量はその半分にしか過ぎません。言い換えると、1,920m3/秒が過大なのです。

(結論)
 伏見川合流地点から河口までの河川の拡幅事業が進行中であり、これが完了すれば、犀川の治水安全度は百年確率の洪水に対して十分に安全です。
以上

(添付資料)
 石川県河川課長および金沢市河川課長あての「犀川の治水に関する申入書」平成14年7月26日

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