犀川の河川整備に関する公開質問状
――治水、利水、河川環境の重要4項目について――

平成16年6月9日
石川県知事 谷本 正憲 殿

犀川の河川整備に関する公開質問状
――治水、利水、河川環境の重要4項目について――

犀川の河川整備を考える会
 代表 中 登史紀(57歳、技術士)
(住所)金沢市小立野3-12-28

平成16年5月18日付けで当会が犀川水系流域委員会委員長玉井委信行宛に提出した「犀川の河川整備に関する意見書」(平成16年5月18日)で指摘しましたが、治水、利水、河川環境に関して重要な点は以下の4項目です。委員会において県の説明や委員の議論がほとんどなく、我々の理解は十分ではありません。県はどのように考えているのか、6月25日を目途にご回答くださるようにお願い申し上げます。

質問1.犀川の治水安全度を示せ
 現状の犀川大橋地点、現状の河口付近の治水安全度は?
 犀川河口からJR橋までの整備が終わった段階での治水安全度は?
 
莫大な費用と時間をかけて行われてきた河川事業によって、現在の犀川の治水安全度はどれくらいか、今後河川整備を行うにあたりその緊急度がどの程度であるのかについて県は説明する責務があります。緊急度が高ければ河川整備を急ぐべきですが、ある程度のレベルに達しているのであれば急ぐ必要はないことになります。良識ある県民の最も関心ある点です。平成7年の「辰巳ダム治水計画説明書」では現在の安全度は1/50となっていました。今回の計画の見直しの結果、どの程度の安全度になるのか説明するべきです。

質問2.基本高水のピーク流量1,750m3/秒は有史以来発生したことの無いような洪水である。委員会で「計画論として妥当」と断定されたが、これが1/100発生確率である理由は説明されていない。何年確率か説明せよ。

基本高水のピーク流量1,750m3/秒は有史以来発生したことの無いような洪水であると主張する理由は以下のとおりです。
(隣接の手取川を参考に推定すると920m3/秒)
「方針」の「第三部1.」で「基本高水のピーク流量は1,750m3/秒」としていますが、とてつもなく過大で有史以来発生したことの無いような洪水です。筆者の再三の「統計手法の誤り」という指摘(例えば、平成15年3月11日付「犀川の河川計画に関する公開質問状」)に対して石川県のホームページ上で(犀川水系河川整備基本方針に関するQ&A、Q15)で次のように回答しました。
「カバー率を用いて計画を決定したのではありません。」
これは統計的に求めたのではないということと同義です。ということは、この数値が確率的に最もありそうな1/100確率値とはいえませんので過去に実際に起きた洪水量(既往洪水)と照らし合わせて確認する必要があります。石川県が行った既往洪水との比較はつぎのとおりです。
[基本高水] [既往洪水の推定値]
1,750m3/秒 > 1,211 m3/秒 第二室戸台風(S36.9.15)
1,192 m3/秒 台風7号(H10.9.21)
1,058 m3/秒 台風20号(S47.9.16)
(注:既往洪水は流域全体が湿潤(飽和雨量0mm)と仮定して算出した推定値)
(筆者注:実際の水量はこれよりも少なくなります。台風7号(H10.9.21)の場合、流量観測データでは、842m3/秒でした。)
かなり大きく見込んだ既往洪水の推定値に対しても基本高水は大きくなっています。
犀川流域に隣接し、地形的、気象的に類似した手取川と比較すれば一目瞭然です。つぎのデータは、社会資本整備審議会河川分科会第六回河川整備基本方針検討小委員会 (平成15年7月18日)で行われた議論によるものです。
[基本高水] < [既往洪水の推定値]
6,000m3/秒 7,900 m3/秒 第二室戸台風(S36.9.15)
(注:既往洪水は流域全体が湿潤(飽和雨量0mm)と仮定して算出した推定値)
推定値が7,900 m3/秒と大きくても実際には飽和雨量0mmとは考えられないので実際にはもっと小さいだろうから6,000 m3/秒でも安全上問題ないということです。
これを犀川のケースに当てはめると、第二室戸台風の既往洪水の推定値1,211m3/秒に対して、基本高水は920m3/秒に対応します(1,211×(6,000/7,900)=1,211×0.76=920)。
[基本高水] [既往洪水の推定値]
920m3/秒 ← 1,211 m3/秒 第二室戸台風(S36.9.15)
石川県の主張する基本高水1.750m3/秒は約2倍にあたり、いかに過大かわかります。
(過去100年間に発生した最大の洪水は800m3/秒前後)
筆者は、過去100年間に犀川で発生した洪水の実地調査および過去の記録調査等を実施した上で、石川県河川課長宛に「犀川の治水に関する申入書」(平成14年7月26日)を提出しました。上位2ケースは、
平成10年9月22日台風7号 842m3/秒以下
昭和36年9月16日第二室戸台風 727±87m3/秒
です。石川県の過去の資料(「犀川中小河川改修事業全体計画書(昭和47年度)」の添付文書「犀川河川改修計画報告書(計画高水流量編)」p.22)では、
昭和36年9月16日第二室戸台風 700±50m3/秒
としています。
過去100年間に発生した最大洪水は800m3/秒前後で、1,750m3/秒は異常に過大です。
(藩政期を含めた約400年間でも500−1,000m3/秒前後)
犀川大橋上流で流下能力が制約されるのは、2km上流の鞍月用水取水口地点(城南一丁目、油瀬木)です。利常の命で犀川の改修が行われ、正保年間(1644-1648)に用水堰が築かれて以来、ほぼ現在の形となっています。この地点の流下能力が,500〜1000m3/秒です。(平成15年12月26日犀川水系流域委員会総合部会資料より)この地点が氾濫したとの記録が1回あり、明治7年7月(1874)の洪水で取水口そばにあった白山社が流されました。藤棚白山神社由緒書きによれば、元禄二年(1689)当地に建立されています。約200年間は当地点の流下能力以上の洪水はなかったと推定されます。元禄二年以前の寛文8年(1668)に大きな洪水の記録「犀川切れ新竪町本竪町を経、河原町へ暴流」〔菅家見聞集〕があります。「犀川切れ」が鞍月用水取水口地点と推測すれば、鞍月用水ルート(犀川の旧河道)を通じて竪町付近に暴流が発生します。
これらの過去の記録から、過去約400年間で発生した最大は500−1,000m3/秒前後ではないかと推定されます。「方針」の基本高水のピーク流量1,750m3/秒はとてつもなく過大です。
(とてつもなく過大な基本高水となった理由は1/100ではなく、1/2,400の確率の数値を選択したためです)
石川県は、100年確率の洪水(おおむね100年に1回発生する規模の降雨による洪水)を求める解析をしたはずです。筆者は、平成15年3月11日付「犀川の河川計画に関する公開質問状」で県の解析の問題点を指摘しています。これに対して、石川県のホームページ上での回答(犀川水系河川整備基本方針に関するQ&A、Q15)は、「カバー率を用いて計画を決定したのではありません。(筆者注:これは統計的に求めたのではありませんと同じ意味)」と回答しました。(統計手法ではカバー率50%値が求める数値です。)これでは、統計手法で1/100確率の洪水を求めたことにはなりません。最初に掲げた条件【計画の規模を1/100(100超過確率年)とする】と異なります。
 石川県は制限条件を設けて33パターンから24パターンを選択しました。24パターンの第1位(最大)の出水量1,741m3/秒である平成7年8月30日低気圧/前線の降雨パターンを選択しました。24パターンから統計的にではなく、恣意的に1パターンを選択したことになります。
石川県の考えは、要するに2日雨量314mmの24パターンをすべて1/100だからどれを選んでも1/100であるということになります。とすれば、1/100が24あるということになります。どれも同じ重みであり、発生する確率は同じとすれば、このうちの一つの発生する確率は、
1/100×1/24=1/2400
になります。石川県の求めた数値は1/100ではなく、1/2,400(おおむね2,400年に1回の洪水)となります。
 本来、「引き伸ばし法」による降雨波形群から、統計的に最もありそうな降雨波形による洪水を求める一連の過程の途中で一つをつまみ出すのは統計の誤りです。1/100の確率のものが2つあり、そのうちの一つを選択すれば、1/200の確率になるからです。
 石川県は集積した降雨データを解析して33パターンの降雨波形群を求めました。これらの頻度分布曲線から、最もありそうな確率の降雨は昭和38年6月4日台風2号のパターンであり、1/100の出水量は1,043m3/秒となります(頻度分布曲線の頻度の最も大きくなる中央値)。  

質問3.新たなダム等の貯留施設を整備が必要と主張する理由を示せ

金沢市の上水の水余りのため、犀川/内川ダムのダム容量に著しい余裕があり、新たな貯留施設を整備する必要はありません。
 平成15年5月26日付で犀川水系河川整備検討委員会委員長、石川県河川課長あてに提出した「犀川の利水計画に関する公開質問状」において、「上水の水余り」を指摘しています。その際に同時に指摘した工業用水・かんがい用水については見直しがなされましたが、上水については、全く検討された形跡もなく、回答もありません。
犀川/内川ダムで開発された水量2.43m3/秒に対して、実際に取水しているのは約1.19m3/秒程度にしかすぎません。その差の約1.2m3/秒の水余りがあります。これは内川ダムで開発された上水量(1.16 m3/秒)に匹敵します。つまり、内川ダムの上水ダム容量(460万m3)が余っていると言うことです。新構想辰巳ダム(600万m3)に匹敵します。
金沢市の水需要は過去25年以上にわたり、横ばい傾向が続いています。今後の伸びの見込みもなく、金沢市は見込み違いを認めています。
さらに、県営水道からの取水は2015年には2.26m3/秒に引き上げられ、その結果2.41m3/秒の水余りが見込まれます。これは犀川/内川ダムで開発された水量2.43m3/秒に相当します。つまり、内川ダムに加えて犀川ダムの上水ダム容量分も余ることになります。ダム容量にして959万m3、新構想辰巳ダム(600万m3)の1.6倍の容量です。            
追記:県営水道から取水2.26m3/秒(195,000m3/日)は平成2年(1990)に実現する予定であったが、実は金沢市の水需要の見込み違いのため、平成12年(2000)に延期、さらに平成27年(2015)に再延期されたものです。金沢市は見込み違いを認めており、「現在の給水能力で十分であり、県水の現行受水量の凍結、さらには、年間最低受給水量の下方修正を県に対して粘り強く働きかけていく。」(『金沢市水道事業新基本構想平成10年3月』p.16)としています。

質問4.ダム等の堆砂により犀川中下流の砂、砂礫の不足が指摘されているが、供給のための方策を示せ

ダム等の河川を横断して造る構造物群の最大で永遠の欠陥は「堆砂」です。
 犀川水系では、規模の大きなダムが5カ所(犀川、内川、上寺津、新内川、平沢川(ヒラソガワ))。砂防ダム(床固工を含む)が53カ所(平沢川ダムを除く)あり、現在の累積堆砂量は176万m3(ただし、平沢川以外の砂防ダムの堆砂は不明のため除く)、毎年の堆砂量は約3.2万m3(砂防ダムの堆砂は不明のため除く)です。100年後には、496万m3になります。砂防ダムの貯砂量69万m3超(平沢川ダムは含まず。53カ所のうち19カ所は貯砂量不明。)を含め、犀川水系のダム群の100年後の堆砂量の合計は約570万m3となります。新構想辰巳ダム(600万m3)に相当するダム容量がほぼ砂で埋まることになります。
 ダム築造により下流への土砂供給が抑制されたため、川の中流域では土砂が洗い流され、河床の洗掘現象が起きています。特に土砂よりも粒径の大きな砂礫類はダムに堆積し下流へ流れないので中流域の砂礫不足は明らかです。本来の生息しているはずの生物に適した河川環境とは言えません。


辰巳ダム日誌一覧表へダム日誌2004.6へ