兼六園の曲水は"かんがい用水"か

 兼六園の曲水は、農作物を作っているわけでもないのに、法律上は"かんがい用水"である。曲水の流れのもとは辰巳用水であり、辰巳用水は土地改良区が管理し、犀川の上流でかんがい用水として取水しているからである。

 歴史的には、曲水をはじめとする、殿様のための用水として築造したものだ。殿様用水とも呼ばれた。余り水が用水沿いの田畑に供給されていた。藩政時代が終わると、辰巳用水の管理が、かんがい用水を管轄する土地改良区に移管され、辰巳用水はかんがい用水となった。藩政時代とは逆に、かんがい用水の余り水が兼六園に供給されることに変わった。辰巳用水の水利権の許可書には「潅漑用以外は兼六園への用に供する」とある。

 慣行的に行われてきた水利であり、かんがい用水であろうと、かんがい用水の余り水であろうと問題があろうはずがなく、犀川から取水した水を使う権利がある。いわゆる慣行水利権である。

 ところが、昭和42年、辰巳用水の取水のために犀川河道に設置されていた頭首工(堰)を災害復旧する際に、辰巳用水土地改良区は河川管理者(石川県知事)に対して、河川法第26条(工作物の新築等の許可)の許可を受けたが、第23条(流水の占用の許可)、第24条(土地の占用の許可)の許可も同時に受けることになった。
第23条は流水の占用の許可であるので、辰巳用水はいわゆる許可水利権に改まった。

 許可水利権となると、目的、取水量、占用の期間等、一つ一つ河川管理者から許可を受けなければならない。辰巳用水土地改良区がかんがい用水として許可を受けて0.70m3/秒を取水しているが、兼六園の曲水として年間を通じて0.07m3/秒程度の水量を辰巳用水から受けていることについて河川管理者から許可を受けているわけではない。河川法に違反して水利用しているということにもなる。

 軒を貸して母屋を取られたようなものである。兼六園の曲水のために造った用水を使っていたものが、いつのまにかこれが「勝手に使うのはまかりならん、違法だ」ということになったわけである。

 土地改良区ももともと慣行的に使っていたものでいちいち許可を申請するのは気にいらないというようなこともあったのだろう、平成24年にもとに戻った。

 平成24年9月28日付けで辰巳用水土地改良区から石川県知事あてに、慣行水利に戻すようにお願いする文書※1 が提出され、同日、知事の通知※2 でもって昭和42年の河川法第23条(流水の占用)に係る許可処分とその後の同許可処分を取り消しすることで、辰巳用水の水利を許可水利から慣行水利に戻した。
お願い文書にも通知文書にも、その原因は、昭和42年当時の土地改良区が昭和40年に改正された河川法を理解が十分でなく錯誤による申請をしたことだったとの説明がされている。

 土地改良区が何をどのように錯誤したのか、その錯誤を許可する石川県が45年もの間、わからなかったのかなどについてはよくわからない。

 ともかく、辰巳用水は、取水の目的(例えば、かんがい用水)について許可を得る必要はなくなり、単に"用水"となり、慣行水利権(無条件に0.70m3/秒を取水できる)となった。

 慣行水利とすると、水利権量は0.7m3/秒のままとなるので、辰巳ダムの整備計画による見直し水量0.584m3/秒を実現することができなくなるがどう処理するのか、辰巳ダム計画を見直しするのかなどという問題に波及することになるが(-_-;)。

 大局的に見ると、国(国土交通省)は、河川の土地ばかりでなく、河水を一元的に管理するために許可のしくみを入れて河川法を改正したが、日本の河川のほとんどの河水は歴史的にかんがい用水として利用されており、土地改良区(農林水産省の管轄下)が管理しているので許可水利に移行することが容易ではないということか。水利権を国土交通省が取り上げようとするのに対して農林水産省が抵抗しているという図にも見える。

【資料】ホームページへ
1:辰巳用水土地改良区が石川県知事へ提出した文書「辰巳用水の水利権に係る経緯書」平成24年9月28日付け
※2:石川県知事通知文書「辰巳用水土地改良区の水利使用に係る取り扱いについて」平成24年9月28日付け

河川法第24条許可文書(石川県指令金土木第1610191号)平成12年3月21日付け
河川法第24条許可文書(石川県指令県央土第21-1-208号)平成22年3月26日付け
東岩取水口前の頭首工(堰)設置のための申請・更新の一覧(エクセルファイル)

【参考】
河川法
(流水の占用の許可)
第二十三条  河川の流水を占用しようとする者は、国土交通省令で定めるところにより、河川管理者の許可を受けなければならない。
(土地の占用の許可)
第二十四条  河川区域内の土地(河川管理者以外の者がその権原に基づき管理する土地を除く。以下次条において同じ。)を占用しようとする者は、国土交通省令で定めるところにより、河川管理者の許可を受けなければならない。
(工作物の新築等の許可)
第二十六条  河川区域内の土地において工作物を新築し、改築し、又は除却しようとする者は、国土交通省令で定めるところにより、河川管理者の許可を受けなければならない。河川の河口附近の海面において河川の流水を貯留し、又は停滞させるための工作物を新築し、改築し、又は除却しようとする者も、同様とする。


2017.9.22,naka

 

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