翻訳書がWEFのカタログで紹介!

 中が翻訳し、中技術士事務所が発行している「翻訳書」がWEF(The Water Environment Federation;水環境連盟)のカタログで紹介されました。
『下水処理のためのナチュラルシステム』
『活性汚泥微生物学―バルキング,発泡の原因と対策―』

原著はともにWEFで出版されており、WEFの了解を得て翻訳したものである。前者は、各専門分野の研究者らが協力して翻訳したものであり、訳者と専門分野は、それぞれ、沢野 伸浩(環境情報学)、高橋 久(動物学)、永坂 正夫(植物学)、中 登史紀(下水処 理)である。1994年から3年がかりでまとめた。後者は、中 登史紀が1998年に訳し終えたものである。訳書はいずれも「中技術士事務所」から発行されている。

『下水処理のためのナチュラルシステム』は、下水処理の一方法としての「ナチュラルシステム」を紹介したものである。「ナチュラルシステム」は、自然の湖沼や湿地などに見られる自然の浄化のしくみをそのまま取り入れ、処理施設として人為的に運転管理している処理法の総称である。処理効率が悪く、広大な用地が必要なことから、国土の制約される我が国では不向きであると見られていたが、従来の処理場で処理された後の処理水をさらに高度に浄化する場合に、従来法では下水中の汚濁物をゼロにするためにエネルギーや費用が著しく嵩むことから、最近、我が国でも「ナチュラルシステム」に関心が高まっている。本書は下水道技術者向けの専門書であり、下水処理のためのナチュラルシステムについてすべての処理法が取り上げられている。個々に処理技術の断片的な情報はあるが,これを読めばすべてがわかるという本は少ない。この本を通読すれば各々の処理法について理解できるとともにナチュラルシステム全体についても把握することができるものである。

また、『活性汚泥微生物学―バルキング,発泡の原因と対策―』は、WEF(米国水環境連盟)が下水処理場の活性汚泥施設運転で問題となるバルキング,発泡現象についてまとめたものである。施設の水質試験員や運転者のみならず,施設の計画・設計・施工に携わる技術者にとっても有用な情報が記載されている。現在はまだ、豊富な経験にもとづいた、総合的で簡明な、この種のマニュアルが少ないのが現状である。計画や設計の段階であるいはトラブルが発生した際にそのヒントを得るために、座右に備えておくと役に立つ一冊である。

上:WEFのカタログ
右上:『活性汚泥微生物学―バルキング,発泡の原因と対策―』
の拡大図

右:『下水処理のためのナチュラルシステム』の拡大図


ところが、折角の紹介に重大な誤りがありました。
"Activated Sludge Microbiology-Korean Edition"???
早速、WEFにfaxしました。
WEF
Dear the person in charge of Technical Resource Catalog 2000
Thank you for sending your Catalog to me.
But, I found the mistake in your Technical Resource Catalog 2000 page13.
"Activated Sludge Microbiology-Korean Edition" is wrong.
"Activated Sludge Microbiology-Japanese Edition" is correct.

どうして、韓国編と間違えるんでしょうかね? 想像するに、日本語も韓国語も、日本人も韓国人も米国人にとって判別しがたいのでしょうね。これは、世界中どこでもおなじようなことで、ヨーロッパでもアフリカでも、「お前は中国人か」とも、「韓国人か」とも、「日本人か」とも、尋ねられます。先方にとっては、全く同じにしか、見えないのでしょうね。


『下水処理のためのナチュラルシステム』


訳者のはじめに

"Natural Systems for Wastewater Treatment, Manual of Practice FD-16"は米国水質汚濁防止連盟(the Water Pollution Control Federation, the Water Environment Federationの前身)のTechnical Practice Committeeが Natural Systemsのチームを構成して作成したものである.
下水道技術者向けの専門書であり,これは下水処理のためのナチュラルシステムについてすべての処理法が取り上げられている.個々に処理技術の断片的な情報はあるが,これを読めばすべてがわかるという本は見当たらない.この本を通読すれば各々の処理法について理解できるとともにナチュラルシステム全体についても把握することができるであろう.
下水処理の一方法としての「ナチュラルシステム」は,文字どおり,自然の湖沼や湿地などに見られる自然の浄化のしくみをそのまま取り入れ,処理施設として人為的に運転管理している処理法の総称である.従来の活性汚泥法に代表される下水処理技術とは大きく相違する.従来法は少ない面積で高密度の微生物を培養し,機械多用,エネルギー多消費型の技術である.ナチュラルシステムは逆に大きな土地を利用することで自然の浄化力を最大限に活用する方法である.処理に関与する微生物密度は低いが,動植物の働きも含めた生態系全体が機能し,自然のエネルギーを利用するので人工的にエネルギーを投入する必要はない.
本来,下水処理は住民の日常活動から発生した,有機物を主成分とする下水を対象としており,自然界に多量に存在するバクテリア等によって分解され,安定化するので「ナチュラルシステム」である.近代下水処理技術が取り入れられる以前は,「ナチュラルシステム」の概念に含まれるラグーン(大きな沼池)やイリゲーション(かんがい)で処理することが世界各地で行われた.
人口の著しい増加と集中と共に下水量も著しく増加し,ナチュラルシステムでは対応できなくなり,19世紀の中ごろ,英国などで近代下水処理技術が開発された.散水ろ床や活性汚泥法などといわれるものであり,これらの下水処理技術も基本的には,自然の浄化に寄与している微生物の働きを活用したものであるが,生物密度を高め大量のエネルギーを投入して効率的に処理するところが大きく異なる点である.近代下水処理技術が効果をあげるとともに,大中都市ではこれらの方法が主流となった.
米国で改めて「ナチュラルシステム」が注目されるようになったのは,1972年の水質保全法(Clean Water Act)の改正がきっかけである.この法律で汚濁のゼロ排出(ゼロディスチャージ)の考え方が導入され,これに適する技術として「ナチュラルシステム」が取り上げられた.従来法では下水中の汚濁物をゼロにするためにエネルギーや費用が著しく嵩む.
日本では,湖沼の富栄養化の防止のため栄養塩(N,P)の除去が問題になってからである.従来法の改良型の脱窒・脱りん技術が進歩し,各地で稼動するようになったが,この方法で7,8割の栄養塩は除去できるが,エネルギーが多量に必要でコストが嵩むこと,それ以上に除去率をあげることが困難であることなどの理由から,「ナチュラルシステム」が注目されるようになった.
環境保全のために下水処理場を整備して下水を二次処理しても湖の水質が期待したほど浄化,改善されず,藻類の異常発生があいかわらず起こる.これを防ぐには,現在行われている下水道整備に加えて,さらに栄養塩を除去する高度な処理施設の整備と多額の維持管理費用が必要となる.琵琶湖では,すでに栄養塩を取り除くために大きな施設が巨費を投じて建設され運転が開始している.そしてこれを補完するため,ヨシなどの水草を復活させてさらに浄化しようという試みも同時になされている.
また,琵琶湖のように上水道源となっているようなところでは,このような巨費を投じた投資も可能であるが,多くの直接的な水利用が行われていない自然の水域では,施設の整備と運転は経済的な面からも困難である.必然的に,自然の生態系の浄化能力に目が向けられることになる.
その他に,つぎのような技術としてとらえることもできる.
・ 二次処理下水を河川維持用水として再生する技術
二次処理した下水を河川や水路の維持用水として利用する場合,さらに高度にBODやSSを除去することが求められる.現在は物理化学的処理(砂ろ過法など)が採用されている.
・ 低濃度有機性排水の浄水処理技術
二次処理下水を生活用水あるいは飲料水まで浄化する.比較的汚れた有機性排水の処理を行う下水道技術とあまり汚れていない無機性濁水の処理を行う上水道技術の中間の技術である.
・ 農業系排水の処理技術
 河北潟干拓地内に限らず、特に酪農等農業系の負荷に関して従来型の処理法を使えばそのコストが農業製品の価格に転嫁され、結果としてさらに農業製品の国際競争力が失われることになる。「ナチュラルシステム」という技術は、今後の日本の農業のありかたと、環境保全のあり方を両立させていく上でも極めて有望な処理技術である可能性が高い。

 ところで,訳者が住む金沢市に接して県内一の規模を有する河北潟がある.近年,この汚濁の進行が大きな問題となっている.干拓前の河北潟は2300haの広大な面積を有し,水質の清浄なことで大清湖といわれた.干拓後,水面積は410ha程度と減少し,その上,排水が無処理のまま流入していたので特に夏は下水処理池といえるような状態まで悪化していた.
下水道整備が進行し改善が期待できるものの栄養塩の蓄積による富栄養化の問題は残る.このような河北潟の状況に関心のあった沢野,高橋,永坂らは,各専門分野からの調査を進めていた.一方,中は途上国の下水道技術援助の仕事に携わっていたが,下水道技術援助に際しては,日本で主流の省面積・機械多用・エネルギー多消費型技術を適用できない場合が多く,「ナチュラルシステム」の範疇の技術を理解することが必須であった.そこで,ナチュラルシステムの翻訳を中が沢野,高橋,永坂に持ちかけ,4者で翻訳することにした.
沢野の専門は環境情報学,高橋は動物学,永坂は植物学,中は下水処理である.ナチュラルシステムの理解に不可欠な専門家が集まったのが幸運であった.また,沢野は英語教師をしていた経験もあり,沢野を中心に翻訳することにした.沢野は第1,2章,高橋は第3章,永坂は第6,9章,中は第4,5,7,8章を担当した.
1994年9月に翻訳を始めた.週1回,3〜4時間の会合を60回以上続けた.その間,仕事のため中断したり,米国への視察なども行ったため3年近い時間が経過してしまった.
本書の翻訳にあたり,心がけたことは専門外のものが読んでもわかりやすいように平易な訳になるように心がけた.また,ナチュラルシステムに関する訳語が公式に統一されていないこともあり,関連の訳書を参考にした上で最も適切と判断できるような訳語に統一した.これについては,「ナチュラルシステムの分類」として次頁に記述した.
本書作成に当たり,米国WEFからこころよく本書の翻訳許可をいただいたことに感謝したい.

平成10年6月30日 中 登史紀



日本下水道新聞で紹介!



中技術士事務所刊
活性汚泥微生物学―バルキング,発泡の原因と対策―

 中技術士事務所は「活性汚泥微生物学―バルキング,発泡の原因と対策―」を発刊した.米国水環境連盟が活性汚泥施設運転で問題となるバルキング,発泡現象についてまとめた冊子を翻訳,紹介したもの.施設の水質試験員や運転者のみならず,施設の計画・設計・施工に携わる技術者にとっても有用な情報が記載されている.現在はまだ,豊富な経験にもとづいた,総合的で簡明な,この種のマニュアルが少ないのが現状である.計画や設計の段階であるいはトラブルが発生した際にそのヒントを得るために,座右に備えたい一冊である.A5判,82ページ,価格は1,000円(消費税込み),郵送料180円.申し込みはFaxで,代金は後払い(郵便振替払込用紙を送付).Fax:076-245-3069.E-mail ID: nakaco@msn.comまたはNIFTY-Serve ID: KGH07610.


『活性汚泥微生物学―バルキング,発泡の原因と対策―』


訳者のはじめに

この冊子は,米国水環境連盟(the Water Environment Federation)発行の「"The bench sheet monograph on Activated Sludge Microbiology" By michael richard, PH.D.」を翻訳したものである.活性汚泥施設で発生する「バルキング」と「発泡」現象について,総合的に簡明な説明がなされている.施設の水質試験員や運転者のみならず,施設の計画・設計・施工に携わる技術者にとっても有用な情報が記載されている.
冊子の中でこれらの現象は「施設の固有のものである」と再三にわたり,著者が述べているように各施設,地域,国々などで大いに異なるので,これらの情報や経験による知識がそのまま役に立つわけではない.しかしながら,多くのデータと経験をもとに抽出されたものであり、トラブルに際して解決の手がかりは得られるだろう.
日本国内でも古くからの運転管理実績がある大都市では,問題解決のノウハウは蓄積されているが,中小都市では経験が無いかあるいは少ないので施設運転に際してしばしば発生するバルキングと発泡現象に悩まされているところが多い.ここで問題となるのは,中小都市の施設の処理法や条件が大都市と異なることが多いので大都市のノウハウが役に立たないことである.訳者が住む金沢市周辺 の中小都市でも7,8年前から,つぎつぎと中小規模の活性汚泥法の施設を稼動させているが,それぞれ原因が異なるバルキングや発泡に悩まされていることを見聞きする.
さらに,これらの現象は継続的あるいは間欠的に起こり,一つの問題が解決しても,状況や条件の変化につれて別の要因によるトラブルが再発することも多い.活性汚泥施設を運転する大半の施設において,施設が存続するかぎり,これらの問題とつきあっていかねばならない状況が予想される.
現在はまだ,豊富な経験にもとづいた,総合的で簡明な,この種のマニュアルが少ないのが現状である.計画や設計の段階であるいはトラブルが発生した際に,そのヒントを得るために,座右の書の一冊に加えたいと考える.
最後に,翻訳文を全体にわたりチェックしてくれた赤嶺セーラさん,快く翻訳許可をいただいた米国水環境連盟(WEF)に謝意を表するものである.

平成10年6月30日 中 登史紀
 

 

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