最近の豪雨災害は異常気象か?

(最近の治水関係者の枕ことば)

 最近、治水関係者の話を聞く機会があるごとに、その枕詞として出てくるのはつぎのような最近の豪雨被害である。
「最近特に、日本各地、世界各地で大きな洪水が発生している。1998年8月に新潟豪雨、9月には台風7号で金沢に被害、2000年9月には東海豪雨、昨年2002年8月にはヨーロッパで大きな洪水が発生した。さらに、日本各地で従来考えられた無かったような、異常気象と考えられる豪雨災害が頻発するようになった。」
 というものである。犀川水系河川整備検討委員会でも県の治水の責任者は上記の趣旨のことを述べた。

(だから、)

 「いつ、金沢でも起きるかわからない、治水事業は今後ともますます重要である。」と続くのである。聞き手は、「それは大変だ。そういえば、昔、犀川で大きな洪水がたびたび起きた記憶がある。あんなことはもうごめんだ。今、県は洪水防止のために辰巳ダムを計画しているというが、是非とも早く造ってもらわないと。」と反応する。

(それでは、)

 石川県は、かくなる要因を入れて、治水計画をしているのだろうか? ヨーロッパの例はともかくとして、東海豪雨あるは新潟豪雨のデータを入れて、治水計画をしているのだろうか? 「否」である。降雨は気象条件、地形条件等の地域特性の違いで全く異なる。山一つ越えれば異なるものであり、新潟で雨が降ったので金沢にも降るという因果関係は全くない。
 県の計画では、当然ながら、金沢の過去の降雨記録、犀川流域で観測した記録のみに基づいている。異常気象だからと、ほかのデータを入れて検討しているわけでもない。加えて言えば、異常気象だからと、特別のデータを入れて計画するようなことは、日本中のどこでもやっていないだろう。
 その上、県の解析では、過去に大きな洪水被害を出した、第二室戸台風、平成10年9月の台風7号のケースも、検討の過程でありそうもないケースであると棄却している。
 枕詞で言っていることと、全く違う検討をしている。

(異常気象なんて、)

 そもそも、専門家が異常気象なる言葉を安易に使用することにも問題がある。異常気象の定義は、「人が一生の間にまれにしか経験しない現象で、一般に過去30年間に1回程度で発生する現象である。」だそうだ。話し手の意図は、「人為的な影響による、不可逆的な現象(地球温暖化現象?)で大変な事態がせまりつつある」ということであろうが、大変な事態かあるいは自然の周期的な変動かはまだ不明である。100年確率の洪水解析は、異常気象?の予測といえないこともない。とりたてて、異常気象と不安をあおるような問題ではなく、100年確率の中に含まれる現象かもしれない。
 また、市街地でスポット的に時間雨量が極端に大きい豪雨が発生することがある。都市内で排出する廃熱(車や家庭/ビル/工場からの廃熱)によって助長された大規模な積乱雲によるものとみられる。この豪雨により、局所的に大きな洪水被害が発生することがある。しかし、これは河川の広範な流域の洪水現象と結びつくものではない。

(言っていることと違うじゃないか?)

 河川の治水関係者の言っていることとやっていることが全く異なる。つまりは、いびつな治水プロジェクトに肩入れしたために、言い訳しているとしか、聞こえない。
 行政の無謬性(行政は誤らない。決められた手続きを積み重ねて決められたものであり間違っているわけがない!)、行政の継続性(決めたことを止めると混乱する。先輩の決めたことを後輩が覆すことはできない!)があり、正当性/妥当性を説明しなければならないという意志によっている場合があるので、住民は正確にものごとの本質を見極める目が必要である。

(参考)

2002年8月(平成14年)ヨーロッパ豪雨:
 8月中旬にドイツ、チェコなど、9月初旬にフランスで150年ぶりの大洪水が発生した。8月11日から13日にかけて、チェコ南部とドイツ国境の山岳部で50mm−250mmを超える豪雨が発生、平年の2〜4倍の降雨。プラハでは500年確率の規模といわれ、チェコ国内では22万人が避難した。最終的に、ヨーロッパ全土で150人以上の死者がでた。

2000年9月(平成12年)には東海豪雨:
 名古屋を中心に記録的な豪雨が発生し、名古屋市内北部を流れる新川が100mにわたって破堤して数日間にわたり、広い範囲で浸水被害が発生した。
 「日本付近に停滞していた前線に向かって、台風14号の影響で南から暖かく湿った空気が流れ込んで大気の状態が不安定になって豪雨が発生した。平成12年9月11日から12日。日最大1時間降水量97mm、日降水量428mm、最大24時間降水量534mmである。平成10年8月26日から31日にかけて発生した栃木県の那須町の豪雨も降雨メカニズムは類似している。雨量は、27日の日降水量607mm、1時間最大90mmである。
 太平洋岸で発生しやすい気象メカニズムと推測される。「金沢」は、南の方が陸地続きであるため、先のケースのメカニズムによる降雨は発生しにくい。豪雨は積乱雲の集合体で1時間くらいの周期で発生/消滅を繰り返しているが、水分と熱エネルギーの供給源がないと続かない。金沢気象台や医王山の観測データを見る限りでは、時間70mmを超える雨が2時間継続した例は無い。」(出典:「金沢の治水を考えるキーワード」、中 登史紀著)

1998年8月(平成10年)に新潟豪雨:
 8月4日から新潟県北部は激しい豪雨となり、明治19年観測開始以来の記録し、一日雨量265mm、1時間雨量97mm。浸水被害は1万5千戸におよんだ。

1998年9月(平成10年)台風7号で金沢に被害:
 昭和36年9月の第二室戸台風以来の大きな台風にみまわれた。今回は、河川の整備が進んでいるため、外水(河川内を流れる水)被害は少なく、内水(河川まで流れ込むまでの水)被害による水路の氾濫による被害が主であった。また、山科地区などで比較的大きな土砂崩れ災害も発生した。最大24時間雨量は金沢158mm、医王山174mm。

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